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同じ著者による『ドキュメント 戦争広告代理店――情報操作とボスニア紛争』(講談社文庫)も『大仏破壊――ビンラディン、9・11へのプレリュード』(文春文庫)も読み応えのあるがっつりした上質のノンフィクションだから、高木徹さんの新刊が講談社現代新書だと知ったときは、 「ちぇっ、新書か」 と思ったものだった。 読み始めてみると、『戦争広告代理店』の内容のおさらいから始まったから、ますます期待外れに思った。 しかし、とんでもない名著だった。新書だからと侮ってはいけなかった。 まず、本書のテーマである“国際メディア情報戦”の具体例が面白い。例えば、クリントン候補がブッシュ(父)大統領にぎゃふんと言わせたテレビ討論会、オバマ大統領がロムニー候補にぎゃふんと言わせたテレビ討論会の分析は、テレビ番組の作り手ならではの丁寧かつ興味深い叙述で、YouTubeで当時の映像を観ながら繰り返し読んだ。YouTubeのURLこそ載せてはいないものの、著者も、実際の映像を観ながら読んだほうが面白いことを暗にほのめかしている。 大統領選の他にも、“国際メディア情報戦”の最前線が次々と描かれて、それを読むだけでも充分に面白い。ただし私が最もグッときたのは、最後の10ページだった。具体的には、「終章 倫理をめぐる戦場で生き残るために」の小見出し「日本が負っているハンディ」から「ここからはあとがきのあとがきである」で始まる見開きまで。ノンブルでいえばp.252~261。 以下、そこからシビれる名文を引用する。 〈過去も現在も未来もナチスと同類でない、ということを常に明確にしていかなければならないというハンディを私たちは追っている〉(p.252) 〈大切なのは、今の日本が、民主主義、基本的人権の尊重、人道主義、表現や報道、思想や信教の自由、社会のあらゆる面での透明性の重視、差別との訣別といった価値観を、国際社会の主要な潮流と共有していることをアピールすることだ〉(p.253) 〈日本は制度として民主主義であっても、その実態と運用において民主主義ではないのではないか、という疑いは常に海外からもかけられていると思った方がよい〉(p.254) 〈日本がもはや経済の面で、アジアナンバーワンではないことは誰の目にも明らかだろう。それでも前述したように第二次世界大戦の負の側面はこれからも背負い続けることになる〉(同) 「名文」とあえて言ったのは、ホットなキーワードは使わずに、しかししっかりと訴えかける書き方が絶妙だからだ。著者はNHKのディレクターだから、露骨なキーワードは使えないという背景もあるのかもしれないが、語彙に縛りがあっても書き方次第でメッセージははっきりと伝えられることを示すお手本のような、舌を巻くしかない文章だ。 「ここからはあとがきのあとがきである」で始まる最後の見開きはこう続く。 〈私がこれを書いているのは、二〇一四年一月はじめだ。ここ二週間ほど、世界のメディアを、日本とそれをとりまく東アジアの状況を懸念する論調が駆け抜けた〉(p.260) 言うまでもなく安倍首相の靖国参拝のことだ。しかし「靖国」という言葉も「安倍」という名前も、ここではまったく出てこない。それでも、著者が発する警告はずしりと伝わってくる。 そして最後、1行アキが上手に使われることで生まれる余韻――。これほど効果的で重厚な1行アキを私は知らない。 最近NHKが何かと議論の的になっている。私は、NHKのトップも経営委員の某氏や某氏も、心の底から軽蔑している。しかし番組制作の現場には、高木徹さんのような優れた人物がいる。一筋の光だ。高木徹さん以外にもたくさんいるのだろう。上からの圧力に負けず、いや、圧力をかけられないような巧妙な――すなわち『国際メディア情報戦』の終盤で用いたようなテクニックで、良質の番組を作ってほしい。我が家にテレビがないのが残念だけど。 ▲
by macondo
| 2014-02-02 01:36
| 本
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